2021年6月8日(日本時間9日)に中央アメリカのエルサルバドル共和国でビットコインが法定通貨になる法案が賛成多数で可決しました。「ビットコイン法」と名付けられた法案が90日後に法制化されます。9月からビットコインが法定通貨となる、これは仮想通貨ビットコインにとって歴史的なことです!
エルサルバドルはどんな国?
中央アメリカ中部に位置し、日本の九州の約半分の国土に約660万人が暮らす、中米で一番人口密度の高い国です。1980年から政府軍とゲリラ勢力との間で激しい内戦が続けられました。1992年に和平合意が締結されましたが、その間約7万5000人が犠牲になり、現在も内戦による経済の落ち込みと治安回復が大きな課題となっています。
ユニセフの情報によると、小学校に入学した子どもたちの内、60%以上の子どもたちが高校卒業まで勉強を続けることができず、18.6%の世帯が十分な食料確保ができず、21.1%の世帯で安全な水のアクセスがない状態だそうです。

そんな国情を背景に、大胆な発想を示した方がこの方、ナジブ・ブケレ大統領39歳。
2019年9月にニューヨークの国連本部で演説をした際には、登壇時にセルフィー(自撮り)を行って世界的に話題になるなど、独特の存在感を示してきた方です。
どのような背景があったのか?
エルサルバドルには以下のような実情があります。
- GDPの20%以上が海外送金によるもの(外国への出稼ぎ者が多い)。
- 海外送金を受取る時に仲介業者に10%~50%もの手数料を取られる。
- 経済的な機会が少なく、犯罪率が高い(殺人発生率が世界2位)ため、移民せざるをえない国民が出てきている。
- 国民の70%以上が銀行口座を持たず、金融システムから切り離されている。
- 内戦の影響で自国の法定通貨が崩壊したため、米ドルを基軸利用している。自国法定通貨のコロンは現在流通していない。
上記のような背景もありビットコインのように公平な通貨ネットワークに可能性を見出そうとしているようです。
インターネットさえあればビットコインのウォレットを持てるので、銀行口座を持っていない人々も金融にアクセスできるようになり、海外送金で仲介業者に高い手数料を搾取されることもなくなります。確かにエルサルバドルの事情とビットコインの特徴が合致しているように見えます。
またブケレ大統領はツイッターで「(手数料にかかる)1% がエルサルバドルに投資された場合、GDP は25%増加する」という試算も示していて、ビットコイン採用を経済成長への「起爆剤」としたいという思いもあるのかもしれません。
ビットコインが法定通貨になるとどうなるのか?
© MARVIN RECINOS / AFP エルサルバドルの首都サンサルバドルに開設されたビットコインのATM
- ビットコインをあらゆる商品やサービスの支払いに利用できる
- ビットコインで納税ができる
- ビットコインの売却益には税金がかからない
法案が法制化されるとビジネスの提供者は客側からビットコインで払いたいと言われた場合は必ずそれを受け入れなければなりません。ただし、すでに法定通貨として導入されている米ドルと併用する形で行われ、ビットコインの使用はあくまで任意となっています。現金での取引は今まで通りすべてドルで行われ、どちらの通貨を使用するかは客側が選択できるということです。
ブケレ大統領は6月24日、ビットコインの導入を促進するため国民にウォレットを無償で提供し、30ドル(約3,300円)分のビットコインを配布すると発表しました。政府はその使い方のサポートなども行います。
首都サンサルバドルに市内初のビットコインのATM(現金自動預払機)が開設され、米ドルをデジタルウォレットに入金できるようにもなりました。
今後の課題
マネーロンダリングに対する対応が挙げられます。万が一、エルサルバドルに犯罪組織ができてしまった場合はそこへの資金提供が可能となってしまい、国際社会からの批判を受けてしまいます。
また、法律的な整備も必要です。IMFは「ビットコインの法定通貨採用は、マクロ経済、金融、法律上の多くの問題を提起し、非常に慎重な分析を必要とする」としていて、これからも協議が継続されるようです。これはただ単にエルサルバドル国内の法律を明確化すればよいという問題ではありません。他国において(日本においても)「エルサルバドルの法定通貨であるビットコイン」を法律的にどのように扱うのか(法定通貨として扱うのか暗号資産として扱うのか)が問題になってきます。
その他の国への影響は? 追従する国はあるか?
自国通貨の強い国(日本を含めた先進国)では積極的にビットコインを法廷通貨にしようという国はほぼありません。
自国通貨が弱いところでかつ銀行ネットワークがないような国、ドルペッグ制を採用するような国は追従する可能性があります。実際に、ブラジル・アルゼンチン・メキシコ・パラグアイ・エクアドル・コロンビア・パナマといった中南米諸国もビットコイン支持を続々と表明しています。
ドルペッグ制とは?
自国の貨幣価値を米ドルと連動させ、諸外国に「価値は下がりませんよ、乱高下しませんよ」とアピールするために用いられる手法。ドルと連動する固定相場制です。海外の投資家たちに安心材料を与え、海外の資金を自国に引き入れやすくなる半面、アメリカの経済金融政策の影響を受けてしまうというデメリットも(連動させる通貨の国に金融政策を追随しなくてはならない)。またドルペッグ制が維持できなくなると資金が引き上げられてしまうというリスクもあります(例、アジア通貨危機)。
追従する国が増えることはビットコインにとってはポジティブなニュースであり、いろいろな国で利用されることにより問題であった通貨のボラティリティ(変動率)も下がっていくと考えられます。
おまけ…カルダノの創業者「エルサルバドルに国賓訪問を申請した」
エルサルバドルでビットコインが法定通貨になったことにより、アルトコイン開発者からの関心も急上昇しています。
暗号化通貨専門メディアデイリー号によると、チャールズ・ホスキンソン氏、カルダノ(ADA、時価総額5位)の創始者が最近、「エルサルバドルへの国賓訪問申請を終えた状態である」と明かしました。「実現すればエルサルバドル大統領に会うでしょう。」と言っています。ホスキンソン氏はエチオピア政府やタンザニア政府とパートナーシップを結ぶなど最も活動的な創設者の一人です。ブケレ大統領39歳とホスキンソン氏33歳、もし若いリーダー二人で意気投合すれば、暗号資産にとってさらなる進展もあるかもしれません。
ブケレ大統領は「ビットコイン以外の暗号資産を法廷通貨にする予定はない」としながらも、アルトコインを禁止するつもりはなく、他の暗号資産プロジェクトが自由にビジネスを行うことができると言っています。またエルサルバドル政府要人は「ビットコインを法廷通貨にするだけではなく、国をデジタル化したい」という興味も持っているらしく、今後は国を挙げてブロックチェーン企業の誘致などもするかもしれません。今後の進展が楽しみです。